植物の「言語」を解き明かし
世界の食料・環境問題に挑む!

岩手大学 農学部 生命科学科 教授
ラーマン・アビドゥール 先生


低温・高温・干ばつ・塩害……
過酷な環境に負けない作物を作る

私たちは、先端植物科学の力によって「世界の食料安全保障」と「環境保全の向上」を目指しています。
まず、「世界の食料安全保障」の基礎となるのが「植物ホルモン生物学」の分野です。私たちは、植物ホルモンが、最適な条件下(水や温度などが適切な環境)と、ストレス条件下(低温・高温・乾燥など)で、成長と発達をどのようにコントロールしているかを研究しています。特に、「オーキシン」と呼ばれる植物ホルモンが、他のホルモンや環境からの情報とどのように相互作用しているのかに着目し、成長の複雑な調節メカニズムの解明に取り組んでいます。そして、その知見を応用しているのが「ストレスに強い作物の開発」です。低温・高温・乾燥などのストレスに対する植物の応答を、分子・細胞レベルで解明することは、私たちの研究室の大きなテーマです。単一の遺伝子を操作することで、寒さに強い植物の開発に成功した経験を踏まえ、将来の農業で不可欠となる、複合的なストレス(例えば、低温と干ばつ、高温と干ばつ、塩害と干ばつなど)に強い作物づくりに取り組んでいます。

植物の力で大地を浄化
次世代の除草剤で環境に優しい農業へ

「環境保全の向上」を目指す取り組みとして研究を進めているのが「ファイトレメディエーション」という植物を用いた環境浄化技術です。現在、地球の陸地の約33%が金属に汚染されており、その影響は拡大の一途を辿っています。この深刻な課題に対し、私たちはセシウム、カドミウム、亜ヒ酸などの有害な金属を植物が吸収するメカニズムに着目しています。具体的には、これらの金属を体内に運ぶ役割を持つ「新規輸送タンパク質」を見つけ出し、高度な浄化能力を持つ遺伝子組換え植物を開発することで、低コストで持続可能な土壌浄化を目指しています。
さらに、環境に優しい農業を実現するため、除草剤が抱える課題の解決にも取り組んでいます。現代農業に除草剤は不可欠ですが、現在のものは環境や人・動物の健康にリスクをもたらす場合があり、同じ薬を使い続けることで雑草が抵抗性(薬が効かなくなる性質)を進化させてしまう問題もあります。そこで私たちは、特定の分子や細胞だけをピンポイントで狙い撃ちすることで、農薬の使用量を大幅に減らすことができる、選択性が高く環境負荷の少ない「次世代型除草剤」の創出を目指しています。

基礎研究を社会へつなぐ

私がこの分野に関心を持ったきっかけは、植物の発生生物学に対する本質的な好奇心と、基礎的な植物科学を通じて、現実の農業や環境の課題を解決したいという強い思いでした。この研究の最大の面白さは、植物が成長し、環境に適応して生き抜くために用いている、目には見えない複雑な分子レベルの「言語」を解き明かすところにあります。そして最もやりがいを感じるのは、そうした「基礎的な発見」と「社会への応用」が交差するところです。植物の言葉を読み解くことが、過酷な環境に耐える作物の開発や、汚染された土地の浄化といった実用的な解決策につながっていく可能性があることに、研究としての深い意義と大きな喜びを感じています。

共に「知の境界」を押し広げよう

このような未知のメカニズムを解き明かし、その成果を社会へ届けるためには、幅広い力が求められます。だからこそ、高校生の皆さんには、すべての学びを大切にしてほしいと思っています。受験勉強はただの関門ではなく、生涯役立つ「批判的思考力」を鍛える場です。数学と理科で培う論理的な分析力、そして語学や人文系の科目で養う表現力や多様な価値観への理解は、将来データを読み解き、研究を進め、その成果を世界へ発信するための不可欠な武器になります。
高校時代には、英語力を高めることに加え、部活動や実験、考えを発表する機会を積極的に持ち、分析力とコミュニケーション能力を磨いてください。科学の世界では、成果を国際的に発信できる力は研究そのものと同じくらい重要です。私たちは、これらを基盤に「なぜ」「どのように」と能動的に問い続ける知的好奇心と粘り強さを持つ学生を求めています。科学はチームで進めるものです。失敗は重要な一歩になるため、失敗を恐れずに自立して考え、グローバルな視野で他者と協働しながら、共に知の境界を押し広げていける方をお待ちしています。

ラーマン・アビドゥール先生からのメッセージ

大学進学を目指している皆さんへ。受験期は大きなプレッシャーのかかる時期ですが、単に知識を試される場としてではなく、自分の規律や継続する力を試す機会として捉えてみてください。準備の過程を大切にしてください。今身につける学習習慣は、これからの人生において長く支えとなるはずです。心構えとしては、前向きな視点を持ち続けてください。苦しいと感じるときには、成功した科学者も皆、困難や不確実さに向き合ってきたことを思い出してください。長期的な目標を見失わず、粘り強く取り組み、好奇心を持ち続けてください。世界に価値ある何かをもたらす力が自分にはあると信じてほしいと思います。植物科学の謎に挑む次世代の研究者として、皆さんが私たちのもとに加わってくれることを楽しみにしています。

(取材日:2026年6月)

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