美しい肌、美しい髪を求めて
――遺伝子からヒトの肌まで!化粧品を科学する
「この化粧水、すごく肌が潤う!」「このトリートメント、髪がサラサラになる!」毎日何気なく使っているスキンケアやヘアケア商品ですが、その効果の裏側にある「なぜ?」を考えたことはありますか?今回は、化粧品の効果を科学の力で検証し、人々の「美と健康」を追究する仁木先生にお話を伺いました。
武庫川女子大学
薬学部
健康生命薬科学科 教授
仁木 洋子 先生
細胞レベルで解き明かす
美白に効く成分とは?
――先生がされている、「化粧品の研究」とは、どのようなものなのでしょうか?
化粧品が、肌や髪の毛にどのような影響を与えるのか、また、その時に皮膚がどのように働いているのか、その仕組みを調べています。
――例えば、化粧水1つとっても商品が無数にあり、効果もいろいろですよね。
はい、その効果の鍵を握るのが「成分」です。私の研究室では、植物などから抽出したエキスを調べ、美白やアンチエイジングに役立つ新しい成分を探しています。
――化粧品として役に立つかどうかは、どうやって分かるのでしょうか?
ヒトの肌由来の細胞を培養して、効果を確認しています。実際に、ヒトから提供いただいた皮膚の組織や、人工的に肌を模して作った実験モデルを活用して、成分がどう作用するかを見るんです。
――なるほど。効果があるかどうかを、実際に「再現」してみるのですね。
そうです。単に効果の有無を見るだけでなく、効果があった場合は、どの遺伝子やタンパク質が働いているのかを調べて、「なぜ効くのか」という理由までしっかり解き明かします。
――良い成分が見つかれば、効果の高い化粧品ができますね!
実はそうとは限りません。どんなに優れた成分でも、肌の奥まで届かなければ効果を発揮できないからです。そこで、有効成分と組み合わせることで、「肌への浸透を助ける」成分や仕組みについても調べています。
――名脇役も大切なんですね!ところで、髪の毛については、どのようなご研究を?
髪の毛は、紫外線やドライヤーの熱、ブリーチやパーマなど、さまざまな要因でダメージを受けますよね。それを、化粧品の成分によって防ぐ方法を探っています。
――やはり、肌と同様に、実際の効果を確かめるのでしょうか?
そうですね。ヒトから提供していただいた髪の毛や実験モデルを用いて、紫外線や熱から髪を守ってくれる成分を見つけ出し、なぜ守れるのか、というメカニズムまで調べています。
――ダメージを「治す」成分ではなく、「防ぐ」成分に注目されているのは、なぜですか?
髪の毛は肌と違って細胞が生きていませんから、自分で修復する力がありません。だからこそ「傷んでから治す」のではなく、「傷む前に防ぐ」ことが重要なんです。
栄養学×皮膚科学
共同研究で、若い女性の健康を守る
――なるほど。「予防」といえば、食生活も、肌や髪の健康に関係するのでしょうか?
そうですね。実は今、最も力を入れて研究しているのが「食事からとる栄養と肌の状態」の関連性なんです。これは栄養学部との共同研究を行っています。
――栄養学と皮膚科学が合わさった学際的なテーマですね!
ええ。専門の異なる先生方と一緒に取り組めることは、この研究の面白さでもあります。それぞれの視点を持ち寄ることで、自分1人では気づけなかった発見に出会えることもありますよ。
――そこでは、具体的にどのようなテーマに取り組まれているのでしょうか?
特に注目しているのが、若い女性に多い「やせ」の問題です。栄養不足は本人の健康だけでなく、将来出産する赤ちゃんの健康にも影響しうると言われていて、社会的な課題なんです。
――それが、食事と肌の関連を調べる理由なんですね。
そうです。肌の状態は全身の健康を映す鏡のような指標ですからね。この研究を通じて若い女性の栄養リテラシーを高めることを目標に、今後さらに発展させていきたいと考えているテーマです。
――具体的に、どのように調査を進めているのでしょうか?
女子大生の皆さんにご協力いただき、肌の水分量や皮脂量、毛細血管の状態などを専用の機器で測定しています。そのデータと毎日の食事内容とを照らし合わせて分析しているんです。
ミクロな研究がマクロな変化へ
基礎研究の先にある社会貢献
――遺伝子から実際のヒトの肌まで、先生の研究はスケールの幅がとても広いですね!
ミクロな世界からマクロな世界まで、1つの現象をさまざまなスケールで見られることは、この研究の魅力だと思っています。
――そして、それぞれが繋がっている、というところがまた面白いですね。
そうですね。細胞実験で見つかった小さな発見が、新たな成分の開発を経て、最終的に人の肌や毛髪の良い変化として現れる。その一連の繋がりを自分の目で追えることに、研究者として醍醐味を感じます。
――研究の成果が、実際の製品に反映されることもあるのですよね。
そのとおりです。大学での基礎研究の延長線上には、企業での製品開発があります。自分たちの研究成果が社会に役立つものになるということを、学生の皆さんにもぜひ知ってもらいたいと思っています。
――先生ご自身、もともと化粧品メーカーの研究員だったそうですね?
そうなんです。開発に関わった製品が消費者に受け入れていただけることは、嬉しいですね。特に、雑誌の読者投票でその年のNo.1化粧品に選ばれた時は本当に嬉しくて、今でも忘れられない出来事です。
メラニン色素への興味
がん研究から、化粧品研究の道へ
――やはり、学生の頃から化粧品に興味をもって研究されていたのでしょうか?
実は違います。学生の頃は、理学部の化学科でがん治療に関する研究に取り組んでいました。当時ターゲットとしていたのは、「ほくろのがん」とも呼ばれる「メラノーマ」です。
――がんの研究から、どのようにして化粧品へと繋がったのでしょうか?
メラノーマは黒いメラニン色素を多く作り出す細胞です。その研究を進めるうちに、がんだけでなく、「メラニン色素」そのものに強く興味を持つようになったんです。
――シミやくすみの原因であるメラニン色素への興味が、美白化粧品に繋がったのですね!
はい。色が変化することによって、細胞内で起きている複雑な反応を「目に見える形」で確認できます。それがとても面白く、社会に出てからもこの分野の研究を続けたいと思いました。
――ところで、研究室の学生たちは、どのようなテーマで研究をされているのでしょうか?
これまでお話してきたテーマに沿って、学生が自分の興味に応じて選んでいます。細胞を使った実験に集中する日もあれば、栄養学部の先生方と議論する日もあり、過ごし方はさまざまです。
――どれも興味深く、テーマ選びに迷ってしまいそうです。
そこで、学生との面談を大切にし、それぞれが本当に興味を持てるテーマを一緒に考えています。自分で選んだテーマだからこそ、うまくいかない時期があっても粘り強く取り組めるのだと思います。
幅広く体系的な学びが叶える様々な進路
――化粧品を科学的に学べる大学というのは、珍しいのではないでしょうか。
確かに、体系的に学べる大学は多くありません。本学の薬学部健康生命薬科学科では、基礎理論や製造知識、化粧心理学に加え、医療系学部ならではの「医療現場で活用される美容」まで、幅広く学べる環境が整っていますよ。
――先生のお話から、この分野に興味をもった学生にお勧めの書籍はありますか?
化粧品を知る入門書としては、日本化粧品検定協会の公式テキスト(主婦の友社)がお勧めです。成分やスキンケアの基礎知識をイラスト付きでわかりやすく学べます。皮膚について詳しく知りたい方には、「あたらしい皮膚科学」(中山書店)などの医学書もお勧めしています。
――卒業研究においても、特徴的な取り組みをされているとお聞きしました。
はい。企業の指導を受けながら、オリジナル化粧品「MUKOism」を企画から作っています。これまでハンドクリームや日焼け止め、化粧水などをつくり、今は第5弾に取り組んでいて、2027年秋に完成予定です。
――学生のうちに、企業からの指導で商品開発とは、すごいですね。
本学は大阪や神戸といった関西の中心都市へのアクセスが良く、化粧品や製薬関連企業との距離が近いんです。そのため、共同研究やインターンシップ、就職活動を行う上でも大きなメリットになっていますよ。
――やはり卒業後は、化粧品企業へ就職する学生が多いのでしょうか?
化粧品企業の他、食品分野、製薬、化学系など、幅広い業界へ進んでいます。治験支援のCROや、理科教員として教育の道に進む卒業生もいます。様々な分野で活躍していて、近年は就職率100%をキープしています。
――それは、すばらしいですね!研究室の学生たちは、どのような雰囲気でしょうか?
和気あいあいとした雰囲気です。春は新入生歓迎会で化粧品企業を見学し、秋は卒業生を招いてバーベキューをするなど、世代を超えた交流も盛んです。「研究する時はする、遊ぶ時は遊ぶ」をモットーに、学生の自主性を大切にしています。
――メリハリのある充実した大学生活が送れそうですね。
過去には、部活動、アルバイト、学業のすべてを驚くほどの活動量でこなし続けた学生もいましたよ。その計画性を就職活動でも発揮し、夢だった化粧品業界での研究職という内定を見事に勝ち取っていましたね。
――きっと、今も社会で活躍されていらっしゃるのでしょうね。
卒業の2年後、1年生向けフォーラムに講師として招いた時には、大学での学びがどう社会で役立つのかを語ってくれました。忙しい合間を縫って後輩達のために時間を割いてくれた姿勢に、当時と変わらない彼女の頑張りを感じました。
友人や先輩と協力し
最後までやり切る経験を
――先生がお考えになる「求める学生像」についてお聞かせください。
本学の人材育成方針「MUKOGAWAコンパス」が掲げる「自ら考え、動く」姿勢を体現できる人ですね。社会に出ると、誰かに正解を教えてもらえるわけではありません。指示待ちではなく、自ら考え行動できる人に、ぜひ来てほしいと思います。
――社会に出れば、正解のない課題に向き合う場面がほとんどですからね。
そのとおりです。だからこそ、「逆境や困難に対応するしなやかな姿勢」と「多様な人々と協働する力」が特に重要だと考えます。
――そうした力を身につけるために、高校時代に必要な経験とは何でしょうか?
部活や委員会など、何かを最後までやり切る経験ですね。研究は、すぐに結果が出るものではありません。壁にぶつかった時、「大変でも最後までやり切った」経験は、諦めずにやり切るための大きな支えになります。
――その中で、「多様な人々と協働する」経験も得られそうですね。
そのとおりです。友人や後輩など、立場の違う人と協力し、自分の考えを言葉にして伝える経験ができます。私自身、高校時代にジュニアリーダーや市民オーケストラに参加し、さまざまな立場の方と交流したことが、今振り返っても良い経験になったと思います。
――受験勉強は、大学での学びや今後の人生にどうつながると思われますか?
学習内容以上に、合格という目標に向けて計画を立て、逆算してこつこつ実行した経験が大きな財産になると思います。もちろん、化学と生物の知識は、現在の研究の基盤になっていますよ。
――学業や部活動などで困難に直面した時、どのように乗り越えるべきか、アドバイスはありますか?
とにかく諦めず粘り強く続けることです。私はバイオリンの難しい曲を、フレーズを細かく分解し、少しずつテンポを上げて練習しました。学業も同じで、大きな壁は小さく分けて、一つずつ着実にクリアしていくのが一番の近道です。
――最後に、受験生へ応援メッセージをお願いします。
受験の不安は、頑張りを「見える化」して自信に変えるのがお勧めです。私も使い終えたボールペンをとっておき、「これだけやったから受かる」と自信に変えました。大学は好きなことを探究できる自由で貴重な場所です。皆さんが新しい「なぜ?」に出会えることを楽しみにしています。体調第一で頑張ってください。
肌や髪を美しく保つ化粧品。その効果の裏側には、化学や生物学から栄養学まで、幅広い科学の知見が活かされていました。「なぜ効くのか」を細胞レベルで追究する緻密な研究の世界からは、大学での学びが社会の役に立つことへと直結しているワクワク感も伝わってきます。大学という自由な学びの場で、あなただけの新しい「なぜ?」をぜひ探究してみませんか?
(取材日:2026年9月)
武庫川女子大学 薬学部 健康生命薬科学科
https://ph.mukogawa-u.ac.jp/learning/healthlife/
仁木 洋子先生の研究室
https://m-cosmic.mukogawa-u.info/skin-physiology-laboratory/
武庫川女子大学 仁木 洋子先生
https://www.edusys.jp/mukogawa-u/tis/public/detail?id=52201&affiliation=150&page=2









