「紙かデジタルか」の議論を超えて
AI時代、子どもたちは何を学ぶべきか?

信州大学 学術研究院 教育学系 准教授
佐藤 和紀 先生


デジタル時代の必須スキルをどう育むか
教育工学の専門家として考える、子どもたちの未来

私の研究テーマを一言で表すと、AIやデジタル技術が普及する現代において、子どもたちの「情報活用能力」(情報を集め、整理し、発信する力)や「メディア・リテラシー」(情報を鵜呑みにせず読み解く力)を育む方法を確立することです。具体的には、小・中学校におけるカリキュラムの設計や実装支援に取り組んでおり、この研究を通して、情報教育のみならず教育現場における様々な課題の解決に貢献することを目指しています。
現在、高等学校には「情報科」が設置され、大学入学共通テストの科目にも採用されています。しかし小・中学校では、中学校の技術・家庭科などで一部が扱われるものの、情報を体系的に学ぶ独立した教科は存在せず、他の教科と比較して学習機会が圧倒的に不足しているのが現状です。私は、こうした課題に対し教育工学の専門家として提言を行っており、2030年度以降、小学校から順次実施される予定の次期学習指導要領では、小学校の「総合的な学習の時間」に「情報の領域(仮称)」が加えられ、中学校では「技術・家庭科」を分けたうえで、情報に関わる内容を新しい教科「情報・技術科(仮称)」で扱う方向で検討が進んでいます。これが実現すれば、小学校から高等学校まで一貫した情報教育の体系が整う見通しです。

教科の枠組みを超える「難しさ」と「やりがい」

情報教育を充実させるためには、「情報」に関する教科等の枠組みを整えるだけでなく、他の教科にどうデジタルの要素を取り入れていくのかが鍵になります。
どのタイミングで、どのような順番や指導法でデジタルツールを使えば、子どもたちの力が最も伸びるのか。それを明らかにし、実際の学校現場で先生方が実践しやすい形へと落とし込むのが私の研究です。
既存の枠組みを超えて各教科に情報教育を組み込んでいくプロセスには特有の難しさがありますが、そこがこの研究の面白さであり、やりがいでもあります。

教員から研究者へ
出会いによって導かれた現在地

この分野に興味を持ったきっかけは、子ども時代にあります。1980年代後半、当時としては珍しく自宅にパソコンがあり、早くからデジタル機器に触れる環境で育ちました。その時の経験が、現在の土台になっています。
大学院の修士課程を修了した後は、小学校の教員になりました。その後、教員を続けながら東北大学の博士課程に進みました。当時は教員を続けるつもりでいましたが、ある時、指導教員から「大学の先生にならないの?」と声をかけられたのです。その言葉に背中を押され、研究の道を歩み始めました。そもそも教員になったきっかけも、周囲から「向いているんじゃない?」と言われたことでした。振り返ってみると、節目ごとに良い出会いに恵まれ、人に導かれながら今のキャリアを築いてきたと感じています。

求める学生像は「多様な視点で物事を考えられる人」

教育学部を目指す皆さんには、「教育全体をより良くしていきたい」という前向きな志を持ち続けてほしいと思います。
教育現場では「紙かデジタルか」のような二項対立の議論が起こりがちです。しかし本当に重要なのは、子どもたち自身が目的や状況に応じて最適な手段を「選べること」ではないでしょうか。その環境を整えるには、教師自身が多様な視点と柔軟な思考を持たなければなりません。
これまでの経験にとらわれず、常に自分自身をアップデートできる人こそが、これからの教育を切り拓く人物だと感じています。私の研究室でも、そうした「学び続ける姿勢」を重んじ、学校現場の次の10年を牽引する人材の育成に取り組んでいます。

テニス漬けの高校時代
10代で培う「体力」が、困難を乗り越える力に

申し訳ないことに、私はこの記事を読んでいる高校生のあなたに、受験勉強の参考になるようなアドバイスはできそうにありません(笑)。というのも、当時は「鉛筆よりもラケットを握っている時間の方が確実に長かった」と言えるほど、勉強そっちのけでテニスに打ち込む日々でした。卒業後は1年間浪人しましたが、第一志望には届かなかったという挫折も味わいました。
しかし、10代のうちに限界までやり切った経験は、その後の人生の大きな支えになります。10年ほど前、教員として働きながら夫婦で育児をこなし、同時に博士論文を執筆するという「死ぬかと思う」ほど過酷な時期がありました。その極限状態を乗り越えられたのは、高校時代の部活で培った「しんどくてもやる」という底力があったからです。あの経験がなければ、研究者としての今の私はなかったと思います。
高校生の皆さんに伝えたいのは、最後までやり抜くための「体力」や「粘り強さ」をつけることの大切さです。それは必ずしも「スポーツをしなければいけない」ということではなく、対象は他のものでも構いません。何かに打ち込んだ経験そのものが、将来、困難な状況に打ち勝つための基礎体力と、自分に負けない強さを育んでくれます。

佐藤先生からのメッセージ

私がそうだったように、高校時代の成績や結果がその後の人生のすべてを決めるわけではありません。私自身、最初から進むべき道を明確に決めていたわけではなく、人との出会いをきっかけに現在の道が大きく拓けました。
人生は、誰かとの関わりによって予想外に大きく拓けることがあります。だからこそ、周囲の人とのコミュニケーションやそこから得られる気づきを、ぜひ大切にしてください。

(取材日:2026年7月)

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