モモの「取りごろ」を音で測る
――おいしい果実を安定して届ける、農学の挑戦

岡山大学 環境生命自然科学学域 教授
福田 文夫 先生


果物を環境ストレスから守る

私は、農学の中でも「果樹園芸学」という木に実る果物の発育や生理現象を追究する分野を専門としています。岡山大学に着任して以来、岡山県の代表的な果物であるモモやブドウを対象に研究を続けてきました。果物を育てていると、環境によって様々な問題(生理障害)が起きます。その発生メカニズムを突き止め、対策法を開発することで、品質の高い果実を安定して生産するための研究を行ってきました。

熟練農家の「感覚」を、誰でもわかる「数値」に

モモの栽培で難しいのは、収穫のタイミングです。モモは成熟すると急速に柔らかくなり、糖度が高まります。数日後においしく柔らかくなる「取りごろ」を見極めるのは、熟練農家の感覚に頼るしかなく、初心者には至難の業でした。そこで私たちは、「音響振動法」という技術に注目しました。果実に微弱な振動(音)を与え、響き方(共鳴する周波数)を調べることで、果実を切ることなく、中の硬さや熟度を数値化する手法です。これにより、農家の経験に関係なく、誰でも最高のタイミングでモモを収穫できるようになります。さらに、この方法で異常な軟化を検出し、「果肉の傷み」を事前に発見できるようになり、現在は、機器開発企業と協力して現場で使いやすい装置への改良を進め、実際の農業現場での実用化に取り組んでいます。

暑さで色づかないブドウを救う

ブドウについては、巨峰やピオーネといった色の濃い品種の研究をしています。近年、夏の異常な暑さの影響で、ブドウがうまく色づかないことが問題になっています。味は良くても、色が薄いと商品としての価値が下がってしまうのです。そこで、果物に色をつける成分(アントシアニン)の生成を促す「アブシシン酸(ABA)」という植物ホルモンを利用し、暑い環境でもしっかり色づくような対策を研究しています。現在はブドウ1房ずつに丁寧に液剤をスプレーしていますが、手間がかかるため、より簡単で効果的な新しい方法の開発や、果実が色づく仕組みそのものの解明に学生たちと一緒にチャレンジしています。

実益に直結する農学の魅力

果物の研究は、1年に1度の成長サイクルに合わせて行う必要があります。気象条件に左右され、自分たちで実験用の木を育て、果実が健全に発育するように管理する大変さもあります。しかし、だからこそ入念に準備を行い、予測を立てて挑むやりがいがあります。
そして一番の魅力は、研究結果が明確で、生産者の「安定経営」や、消費者の「おいしい」という実益に直結することです。自分の研究が数年かけて社会に還元され、栽培方法が新しくなっていくのを見届けられるのは大きな醍醐味です。また、工学や物理学の知見を合わせることで、視野が広がる点も魅力に感じています。果実を切らずに状態を測る「非破壊センシング」の技術は、今後のトレンドになるでしょう。私たちが取り組んでいるモモの研究が、「農学以外の分野からでも農業に貢献できる」ことを示す1つのモデルになると思っています。

研究の原点は、高校時代の部活動

私が今この研究をしているのは、高校時代の経験が大きく影響しています。当時所属していた生物部で植物の面白さに気づき、顧問の先生から「理学部だけでなく、応用科学である農学部でも面白い研究ができるよ」と教えていただいたことが、現在の道に進む起点となりました。高校時代は、柔軟に知識や経験を吸収できる時期ですので、勉強に限らず、部活や趣味、友人や先生とのコミュニケーションを大切にし、自分の興味を探してみてください。
大学では、自分でテーマを決め、目標につながる仮説を立てて研究を進めていきますが、予想通りにいかないことのほうが多いです。その時に理由を考え、別の仮説を立てて再び挑戦する力が求められます。また、新しい発見をするためには、他の学問分野の手法を取り入れたり、周りの人にアドバイスを求めたりする柔軟さも大切です。どのような研究分野でも、決して1人ではできません。お互いに助け合い物事を進められる協調性を持ちながら、様々なことに興味をもってチャレンジできる学生の入学をお待ちしています。

受験で鍛えた「粘り強さ」は一生の武器になる

受験勉強は、幅広い知識や語学の基礎を作ります。その蓄積は、自ら考える力を身につけ、課題に対処する上で欠かせません。大学でも国語や英語はコミュニケーションや研究の理解に重要ですし、基礎学問や研究の詳細な背景を理解するには、数学の論理的思考や理科の知識も使いこなせる必要があります。また、学んだ内容そのものだけでなく、「あきらめず根気強く出口へ導く力」は、受験の過程でこそ得られるものだと思います。受験を通じて培ったものは、その後の人生においても、様々な場面で発揮されるでしょう。

福田先生からのメッセージ

大学や学部選びは、理系の場合は特に、卒業後の職業選択にも関わり、その後の人生を決定していく大切なものです。自ら決めた道へ進んでいく、というモチベーションがあれば、受験勉強にも集中しやすくなるはずです。大学以降の人生において、色々なことに対応できる「幅広いベース」を作れると信じて、日々の勉強を頑張っていただけたらと思います。

(取材日:2026年8月)

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