2歳児が浮力を発見!?
「遊び」の中にある「学び」に気づく、ワクワクと喜びにあふれた保育の世界
「保育の仕事」と聞いて、皆さんはどんなイメージを持ちますか?それは、ただ「子どものお世話をする」だけの職業ではありません。今回は、「保育の質」をいかに高めるかをテーマに、写真による記録やICTを活用し、幼児教育の最前線を探究されている大豆生田先生にお話を伺いました。AIには決して代われない保育という仕事の奥深さと、その世界に直結するワクワクするような大学での学びについてご紹介します。
玉川大学 教育学部
乳幼児発達学科 教授
大豆生田 啓友先生
水遊びの場面に隠されたドラマ
赤ちゃんは有能な学び手
――先生のご研究テーマは、「保育の質を高める」ことだと伺いました。具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
実際に保育の現場に入り込んで、子どもたちの姿を観察することが多いですね。例えば、2歳児の子が水たまりで遊んでいる場面を想像してみてください。
――バチャバチャと走り回って、服を泥だらけにしているイメージがあります。
まさにそれです。でも、ただ遊んでいるだけに見えるその場面にも、実はものすごいドラマが隠されているんですよ。
――ドラマですか!それは、どういうことでしょうか?
ある子は、水たまりにボールを投げ入れると「あれ? 跳ねないぞ」と気づきます。そこで、何度も試したり、違うボールを持ってきたり、回したらどうなるかなど、あれこれ試行錯誤するんです。
――なんだか、理科の実験をしているみたいですね。
その通りです。言い換えると、これは「探究的な学び」ですね。この子は、言葉や理屈ではなく、身体を通じた体験として「浮力」に気づいているんです。
――浮力ですか!子どもの遊びをそんなふうに捉えたことがなかったです。
普通の方は、乳幼児がこれほど学んでいることは知りませんよね。でも、遊びを観察していると、このような「学び」の姿にたくさん出会います。「赤ちゃんは有能な学び手」と言われる理由ですね。
――きっと、幼児教育を専門とする先生だからこそ、気づけることなのでしょうね。
素敵な保育者というのは、こうした遊びの中にある「学び」の瞬間に気づき、それを記録して、他の保育者たちとの対話や学びの材料としているんです。子どもの姿を語り合う私の研究は、いつも喜びにあふれているんですよ。
AIにとって代わられない
「人間性」の高い仕事をAIで支える
――そうした子どもの「学び」の瞬間は、どのように記録していくのでしょうか?
私は「写真記録(ドキュメンテーション)」がとても有効だと考えています。文字だけの記録よりも、写真の方がパッと見てわかりやすいですよね。
――確かに、その場の雰囲気や子どもの表情が一目で伝わりそうですね。
そうなんです。具体的なイメージが持ちやすいので、先生同士の対話が生まれやすくなります。現場の先生が日常的に使うだけでなく、研修で持ち寄って語り合ったり、実習生が記録を取ったりするのにも効果的なんですよ。
――記録には、パソコンやタブレットなども導入されているのでしょうか?
はい。今はICTを活用した記録が広がっていて、私はその研究にも関わっています。保育の現場には、日誌や連絡帳、計画書など、実はたくさんの書き物があるんですが、ICTの活用で、膨大な記録時間の短縮が期待されています。
――先生方って、子どもと接する仕事だけでなく、事務作業も多いイメージがあります。
そうなんです。だからこそ、それらをICTで一元化できないかと模索しています。日々の写真記録を丁寧に行うことで、それが日誌や保護者への連絡ツールになり、さらに保育計画にもつながっていく、という仕組みです。
――それはすごく便利ですね!
最近では、いかにAIを記録に活用するかも大きなテーマですね。ただ、保育というのは、AIにとって代わられない、非常に人間性の高い仕事です。
――確かに、子どもの気持ちに寄り添うことは、人間にしかできませんよね。
その通りです。保育者は、子どもの心を理解し、身体で関わり、即興的な勘を働かせなければなりません。だからこそ、そこに十分な力を発揮するための「道具」として、ICTやAIを活用することが大切なんです。
人生を変えた出会い
学校教育から幼児教育の道へ
――先生は、もともと小学校の教員を目指されていたそうですね?
そうなんです。そのために大学は教育学部に入学しました。でも、授業で幼児教育や保育のすばらしさに出会ったことが、今の道を選ぶ決め手になりました。
――すばらしさ、ですか。いったい、どんな出会いがあったのでしょうか?
先ほどもお話したように、乳幼児は「教えられて」学ぶのではなく、遊びの中で「主体的に」学んでいます。授業中に見た映像の中で、試行錯誤する子どもの姿からそのことに気づき、心を動かされました。
――なるほど。学童期にはない、幼児期ならではの「学び」に惹かれたのですね。
さらに、その気持ちを理解しながら「黒子」として関わる保育者の姿にも感動してしまったんです。そして、幼稚園で担任を経験し、研究の面白さにも出会って、今は大学で教員をしている、というわけです。
――人生を変えてしまう出会いって、すごいですよね。
大学の授業は、そういう内容にあふれていますよ。ただ、そんな感動に出会うには、皆さん自身が心と体を開いて授業に参加する必要があると思います。
――ここでも、「主体的に」学ぶ姿勢が大事そうですね。
そうなんです。ぜひワクワクする心と体を持って大学に来てほしいですね。そして、面白い授業に出会ったら、先生と仲良くなってたくさんおしゃべりしてください。私は大学時代、先生が紹介してくれたフィールドにたくさん出向きました。
――やはり、授業だけでは見えてこない世界が広がってきますでしょうか?
はい。実は私、就職活動で公立幼稚園の採用試験に落ちてしまったことがあるんです。でもそのときも、先生や友人とたくさん語り合い、いろんな現場に出向いたことで、人生にはいろんな道があるのだと気づけました。
――授業の内容だけでなく、先生や仲間とのすばらしい出会いがあったのですね。
はい。絶望や困難に出会ったとき、本音で話せる仲間や大学教員がいることは、大きな支えになること間違いありません。
泥だんご作りにジャム作り
子どものように「面白いこと」を追求
――大豆生田先生との出会いに恵まれた学生たちはどのように学んでいるのでしょうか?
本学の強みは、圧倒的な「子ども主体の保育」と「学生中心の学び」を大切にしていることです。農学部の広大な敷地を借りて、みんなで光る泥だんごを作ったり、ヤマモモを採ってジャムやジュースを作ったりもしますよ。
――泥だんご作りにジャム作りですか!まるで「子ども」を体験しているようですね。
まさにそれです。子どものようになって「遊ぶ」ことで、子どもへの理解を深め、「学ぶ」とは何かを体感してもらっています。
――どの授業においても、学生の声がとても尊重される環境だと聞きました。
そうですね。学生と対話し、共に考え、共に学びを作っていくことを大切にしています。それは、子どもの声、思いや願いを尊重する保育と同じことだからです。
――なるほど。ゼミの学生たちは、どのような雰囲気ですか?
日本一素敵な学生たちだと思っています。そして、よくしゃべります。なぜかというと、ゼミのテーマが「面白いことをやろう」だからです。みんなで話し合って面白い企画を立てます。
――きっと、面白いからこそ、しゃべりたいことに溢れているんですね。
そうなんです。子ども向けの劇を作ったり、森で合宿をしたり。ある学生は、離島に10日間入り込んでフィールドワークを行っていました。都会では失われた「地域のみんなで関わる子育て」の実態を調査していましたよ。
――森や離島ですか!なんだか聞いているだけでワクワクしますね。
実はこのワクワクする感じって、乳幼児と一緒なんです。こうした「子ども性」は、魅力的な大人になるためにも重要なんですよ。
魅力的な出会いが広げる
卒業生の進路
――そんなワクワクを体験した卒業生たちは、やはり保育職に就く人が多いでしょうか?
はい。今は、保育者養成系の大学へ行っても保育者にならない学生が多いと聞きますが、本学は違います。子どもってすごい!面白い!ということが広がっていくと、保育者という仕事の魅力が理解してもらえるのではないかと期待しています。
――先生同様、大学時代の魅力的な出会いが、就職先と関係しているのでしょうね。
そうですね。実習などでも魅力的な園に出会うことが多いからかもしれません。森の保育を行っている園や海外の園に就職するケースもあります。
――他には、どんな進路があるのでしょうか?
保育の質を向上させるコーディネーターになる人や、園長などのリーダー層に向けた学びを行うために大学院に進学する学生もいますよ。
「正解」探しは、もう終わり
ワクワクを胸に大学へ
――先生は、これから大学に入ってくる高校生に、どんなことを求めていますか?
今の日本の教育は、同調圧力の中で空気を読んで「正解」を探すことに追われがちです。でも私は、自分の意見を語り、他者と対話し、行動できる「主体性」を大切にしてほしいと思っています。
――主体的に学ぶといえば、乳幼児が良いお手本ですね。
乳幼児って、ワクワクと一人称で「僕はね…」と自分を語ります。そして、いつも何かに夢中になったり想像したり、枠を超えて創造しますよね。学生の皆さんも、そんな子どもから学ぶ人であってほしいですね。
――そのために高校生のうちから、できることって何でしょうか?
学業以外に、自分が夢中になれる世界があるといいですね。ジャンルは何でも良いと思います。そして、その世界の何が魅力なのかを熱く語ってほしいです。
――最後に、進路に迷っている高校生へメッセージをお願いします。
大学生活は皆さんが思っている以上にワクワクするものです。自分がどんな学びをしたいのか、なぜそう思うのかを自分の言葉で熱く語れること。そのワクワクした気持ちがあれば、きっと受験準備も楽しめるはずですよ!
幼児教育・保育の現場は、子どもたちと一緒にワクワクし、豊かな学びの瞬間に立ち会える、非常にクリエイティブで人間性の高い世界であることが伝わったのではないでしょうか。その奥深い世界を探究する「大学での学び」もまた、ワクワクにあふれています。皆さんも、子どもたちのように「夢中になれるもの」を見つけ、その情熱を胸に、充実した大学生活への第一歩を踏み出してください。
(取材日:2026年9月)
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