江戸幕府と天皇の「お金の関係」とは?
史料を読み解き、新しい歴史像をつくる面白さ

学習院大学 文学部 史学科 教授
佐藤 雄介 先生


江戸幕府と天皇の関係を、お金の動きから考える

私は日本近世史を専門にしており、江戸時代の後期から幕末にかけての政治について、特に天皇・朝廷と幕府との関係を研究しています。以前は「江戸時代の天皇と朝廷は、幕府におさえ込まれて弱くなっていた」という見方が強くありました。ですが近年は「幕府の全国支配の中で、天皇と朝廷も一定の役割を持ち、それゆえに幕府はさまざまな支援をしていた」と考えるのが一般的です。私はこの幕府と天皇・朝廷の関係を、特に経済的な支援に注目して考えてきました。調べていくと、天皇と朝廷は幕府の経済的支援なしには成り立つことができず、御所の財政運営にも幕府側の役人が深く関わっていたことが見えてきました。
さらに、幕府の財政が苦しくなると、朝廷への支援にも制限がかかるようになります。そしてその制限が強まるほど、朝廷の財政は幕府の財政の中に取り込まれていきました。このように、お金の流れを追うことで、政治の関係が少しずつ変わっていく様子をより具体的に見ることができます。それこそが、この研究の面白さだと思っています。

幕末の大事件を、連続した歴史として見る魅力

最近は、江戸時代の後期から幕末にかけて活躍した「鷹司政通」という公家に注目しています。政通は関白・太閤として朝廷内で大きな力を持ち、幕府からも天皇からも一目置かれていました。幕末の大きな出来事の一つに、日米修好通商条約に対して孝明天皇が勅許を与えなかった問題がありますが、政通はこの事件にも深く関わっています。私は、なぜ政通がこれほど大きな力を持てたのか、そして政治の中でどのように動いたのかを明らかにしたいと考えています。政通を中心に見ることで、幕末だけを切り取るのではなく、江戸時代の後期から続く流れの中で幕末史を考えられる点に魅力があります。

史料一つで、予想がひっくり返る瞬間

歴史学の面白さは、扱えるテーマがとても幅広いところにあります。私が勤務する学習院大学文学部史学科でも、学生の卒業論文は多様です。日本史だけでも、武田信玄のような人物を扱う研究もあれば、村や町、寺社、商人の研究もありますし、野球や競馬の歴史、音楽の歴史、江戸時代の宝くじの研究などもあります。この広がりと、分野どうしが重なり合うところが、歴史学の大きな魅力だと思います。また、史料を読んでいると、自分がまったく想像していなかった事実が書かれていることがあります。自分の予想や仮説のようなものが、たった一つの史料でひっくり返されることもあります。私は卒業論文でその経験をしたことが忘れられず、今も研究を続けているのかもしれません。

史料から新しい歴史像を構築するのが「歴史学」

歴史研究の中心のひとつに、史料を読むことがあります。史料とは、昔の人が書いた日記や手紙、行政文書などです。文字だけを追えば良いわけではなく、その史料がどういう性格のものかを考えたり、行間を読んだりすることが必要です。史料を読み、自分なりの新しい歴史像を構築することが歴史学だと私は思っています。史料を丁寧に読み、そこから何が言えるのかを考えていく過程には、発見があり、地道ですが面白さがあります。
研究では、史料を読む力や、論理的に考える力だけが求められるわけではありません。たとえば、史料には数字も出てくるので計算力が必要になることもあります。自分が興味を持った問いに対する「答え」を、史料を根拠にしながら組み立てていくところに、この分野の魅力があると思います。

佐藤先生からのメッセージ

高校生の皆さんには、まず疑問を持つことを大切にしてほしいです。大学の学問は、疑問を持つことから始まると思います。いろいろなことをそのまま受け入れるのではなく、「これはなぜだろう?」と考える姿勢が大事です。専門的な力は大学に入ってから鍛えられます。中学生や高校生のうちは、むしろ幅広く好奇心を持ち、自分の可能性を広げてほしいと思います。大学は、いろいろなことができる場所です。学問も遊びも存分に楽しんでくださいね。

(取材日:2026年2月)

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