「推し活」が学問になる!?
――アイドル文化から見えてくる社会とメディアの関係
皆さんには「推し」がいますか? アイドル、キャラクター、スポーツ選手など、今や多くの人が楽しんでいる「推し活」。実はそれって、ただの娯楽や趣味じゃ終わらないんです。身近な「好き」がどうやって学問につながるのか。そしてそこからどんな社会の姿が見えてくるのか――「推し活」や「アイドル」について研究していらっしゃる、帝京大学の田島先生にお話を伺いました。
帝京大学
文学部 准教授
田島 悠来 先生
社会学で読み解く「推し活」
――先生がされている「アイドルの研究」とは、どのようなものなのでしょうか?
私は社会学やメディア学の視点から、アイドルやそのファンの文化について研究しています。「アイドル」という文化がメディアを通してどう作られてきたのか、探っています。
――「ファンがファンになる理由」ですか!面白そうですね。
もともと、「アイドルはどのようにしてアイドルになるのか」を研究していたのですが、そこから現在の「ファンはどのようにしてファンになるのか」へと興味が移っていきました。
――最近は「推し活」という言葉も、すっかり定着しましたよね。
まさに今、研究しているのがその「推し文化」です。メディアによってどのような「推し活」のイメージが作られているのか、ファンはメディアをどう活用しながら「推し活」を行っているのかを調べています。
――SNSが普及するなど、メディアのあり方も昔とは大きく異なりそうですね。
そうですね。かつては雑誌が大きな役割を果たしていました。私は大学院時代、1952年創刊のアイドル雑誌『明星』(集英社)を分析して、日本におけるアイドル文化の成り立ちをひも解いていったんです。
――今も『Myojo』ってありますね。若い男性アイドルの雑誌ですよね。
実は、今のような男性アイドルの雑誌になったのは、1990年代頃が境だったんですよ。1970年代の『明星』には、男女を問わず当時のスターが幅広く掲載されていました。その中に、今にもつながる「アイドルらしさ」と言えるものを発見したときは、ハッとさせられましたね。
――そこに、アイドル文化の原点があったということでしょうか?
はい。当時の雑誌の内容を分析したり、編集に携わっていた方に話を聞いたりするなかで、読者にとって「等身大」を感じさせるアイドルのイメージが作られていった様子が浮かび上がってきたんです。
アイドル文化が果たす社会的役割
地域を救う「ご当地アイドル」の力
――地域に密着した活動を行う「ご当地アイドル」についても研究されているそうですね?
はい。メンバーや運営スタッフに聞き取り調査を行ったり、イベントに足を運んでファンの様子を観察したり、といったフィールドワークを行いました。
――それによって、どんなことが分かったのでしょうか?
アイドル本人の地元への愛着が強まったり、ファンと一緒に世代を超えて地域の課題を考えることにつながったり、さらにはメンバー自身の様々な問題を解決するきっかけになったりといった効果があることが分かりました。
――アイドルが人や地域を動かしている。もはや、ただのエンタメではないですね。
娯楽や趣味として楽しんでいることから「社会」が見えたときに、研究の面白さを感じます。世の中の「当たり前」や隠れた問題点に気づくこともあり、ジェンダーやセクシュアリティとして追究できることもあるんですよ。
――具体的には、どのような問題が見えてくるのでしょうか?
例えば、アイドルの「年齢」に注目してみてください。女性アイドルは25歳くらいでグループを卒業するのが“普通”とされますが、男性アイドルは活動するのに年齢は問われなくなってきていますよね。
――確かに言われてみればそうですね。当たり前のようで気づきませんでした。
そこに、性別による社会的役割の違いが隠れているんです。それに、女性アイドルのファンは男性、男性アイドルのファンは女性という背景には、社会にある異性愛主義を感じます。
――アイドルの世界って、社会の縮図みたいで面白いですね。
いろいろな面白さがありますが、最大の魅力は、自分の「好きなこと」を研究できる点だと思っています。「推し」のメディアコンテンツを見ることも、イベントに参加することも大事な研究の一環となりますからね。
ディズニーシーで推し活!?
「好き」を極めるゼミ
――「好き」がそのまま学問になるなんて、最高ですね!
ゼミのコンセプトもずばり「好きなこと研究」です。ゼミ生はみんなそれぞれ「推し」や「好きなこと」があって、それを学術的に研究しようと志して来てくれます。
――それは、学生の熱量も高そうですね!
そうですね。それぞれが自分の研究に一生懸命取り組みつつ、他の学生の「好き」にも興味を持って、熱心に意見交換をしています。過去には、ゼミ生みんなでディズニーシーに行って、「テーマパークにおける推し活」について考えることもありました。
――学問分野としては、「メディア研究」ということになるのでしょうか?
そうですね。社会学で扱う領域は幅広く、まずはそれを網羅するようなカリキュラムがありますが、中でもメディア系のことを実践的に学べるのは、本学科の強みだと思います。
――特徴的な授業はありますか?
例えば、「メディアコンテンツ制作実習」という授業があり、学生が主体となって映像やラジオ番組を作ったり、推し活の展示会を開いたりします。作り手の視点を学ぶ良い機会になっていると思います。
――実践的な学びを大切にされているのですね。
そうですね。ゼミの一環として、テレビ局や出版社など、メディア業界で働く方のお話を聴いたり、ロケ現場を見学したりすることもありますよ。
――貴学が位置する多摩地域は、ロケ地として使われることも多いですよね。
はい。様々なメディアコンテンツの舞台になっているので、聖地巡礼や、それをテーマにした研究を行いやすいのは魅力ですね。
研究の入口はメディアへの興味
幼い頃からテレビや雑誌が好きだった
――ところで、先生ご自身の「推し」はありますか?研究を始められたきっかけは、何だったのでしょうか?
熱狂的な誰かのファン、いわゆる「オタク」だったわけではありません。入口は、幼い頃からテレビや雑誌にかなり興味があったことですね。
――メディアそのものに興味があったのですね。
そうですね。でも、だからこそ「なぜここまで熱狂的になれるのだろうか?」と考えることができて、一歩引いたところからアイドルやファンのことを調べてみたい、と思えたんです。
――先生のように、アイドル研究に興味をもった学生にお勧めの入門書はありますか?
自分が関わった本で恐縮ですが、『アイドル・スタディーズー研究のための視点、問い、方法』(明石書店、2022年)がお勧めです。初学者向けにアイドルやファンを研究する方法について書いています。
メディアの現場で活躍する卒業生
作り手だけでなく、演じ手も
――先生のもとで学ばれた学生は、卒業後どんな仕事に就くのでしょうか?
社会学を学んだ学生の進路は本当に広くて、一般企業、公務員、教員など多種多様です。ただ、私のゼミはメディア研究なので、やはりメディア業界へ進む人が一定数いますね。
――メディア業界というと、テレビ局や出版社ですか?
そうですね。あとは、アニメ制作会社や映像制作会社、エンタメ企業、SNS系の広告会社など様々です。中には、「作り手」だけでなく芸人や俳優など「演じ手」になった人もいますよ。
――メディア研究の経験が、表現者としても活きそうですね。先生が求める学生像とは、どのようなものでしょうか?
1つは、自分の好きなことや身近なことを社会のこととして捉え直す思考力ですね。
――体に、アイドル文化からジェンダーなどの問題を見出す視点もそうですよね。
あとは、他者を思いやる想像力、そして社会課題の解決に役立つ実践力をある程度身につけていてほしいと思います。もちろん、入学後にそれらを伸ばしていく「柔軟性」も大切です。
壁にぶつかったときは
好きの原点に立ち返る
――そのために、高校時代に力を入れておくべきことはありますか?
情報のアンテナをはっておくと良いのではないでしょうか。好きなものにこだわり過ぎず、できるだけ多くのメディアコンテンツに触れておくと良いと思います。あとは、学校の勉強を一生懸命やることですね。
――やはり学校の勉強は、どんな研究を行うにしても基礎学力として大切ですよね。
そのとおりです。それに、受験勉強の過程で身につく、1つのことにのめり込み、目標を達成するという姿勢は、社会に出てからも役に立ちます。私自身、受験で身につけた集中力が研究生活にも活きています。
――先生は受験生の頃、壁にぶつかった経験がありますか?どのように乗り越えましたか?
もちろんありますよ。うまくいかなかった時期はもう、ひたすら映画を見ましたね。
――映画ですか!やはりメディアがお好きなんですね。
そうなんです。「三つ子の魂百まで」と言いますが、原点に立ち返れたというか、やっぱりこれが好きなんだ、っていう自分の根っこにある興味を再確認したことで前を向けたと思います。
――最後に、受験生へメッセージをお願いします!
自分の人生は自分のものです。だからこそ、自分が心から納得できる道を、自分自身の目で見極めてください。そのための時間はとても大切です。もし道に迷ったら、いろいろなメディアコンテンツに触れてみてください。そこには多様な人生の物語が溢れていて、きっとヒントが見つかるはずですよ!
「アイドル」や「推し活」といった日常の身近な楽しみは、メディアのあり方や地域社会、ジェンダーなど、世の中の多様な側面と深くつながっていました。あなたの「好き」という気持ちがそのまま学問の扉を開き、社会課題を解決していく「実践力」へと結びつくかもしれません。進路に迷っている人は、まずは自分の好きなこと、夢中になれるものにしっかり向き合ってみてはいかがでしょうか。
(取材日:2026年9月)









