臨床医×病理医の二刀流で、神経疾患の解明に迫る!

愛知医科大学 加齢医科学研究所 神経病理研究部門 教授
岩﨑 靖 先生


認知症は症状が出る10年以上前から始まっている

私は「パーキンソン病」「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」などの神経変性疾患や「アルツハイマー病」「レビー小体型認知症」などの認知症疾患について、病態解明や診断法、治療法の開発を目指し、臨床面と病理面の双方向から総合的、複合的に研究を行っています。
こうした研究は、これまで解剖による病理学的解析を基盤として発展してきました。例えば、記憶力や判断力の低下によって日常生活が困難になる「アルツハイマー病」は、「神経原線維変化」と「老人斑」という2つの異常な構造物が脳内に多数出現することがわかりました。そして、その後の解析により、それぞれ「タウ蛋白」と「アミロイドβ蛋白」から構成されること、さらに、それらは記憶力や判断力が低下する10年以上前から脳内で蓄積が始まっていることもわかってきました。これらの知見をもとに、「タウ蛋白」や「アミロイドβ蛋白」を除去する治療法の開発が進められており、一部は既に実用化されています。

神経疾患は解剖しないと確定診断できない

「アルツハイマー病」は認知症の代表格ですが、認知症全体の半分を占めるにすぎません。他に「レビー小体型認知症」など様々な認知症があり、専門医が診ても診断に悩む症例は多いです。「アルツハイマー病」と臨床診断されていたけれど、病理解剖したら「レビー小体型認知症」であった、ということはしばしばあり、その両方が合併していたケースも珍しくはありません。実は、神経疾患の多くは最終的に病理解剖しないと確定診断がつかないのです。ですから不幸にして亡くなられた場合には解剖させていただいて、その病理標本を見て自ら確定診断や研究をしています。そして、なぜ臨床診断を間違えたのかを臨床病理検討会や学会発表、論文発表を通して多くの先生方と検討してデータを積み重ねています。脳のどこに病変があればどういう症状が出るのか、臨床症状と病理所見を対比検討していくことが、臨床診断の精度を上げるためにも重要なのです。そのため、この研究には神経内科的な臨床の知識や画像所見の知識、神経病理学の知識、さらには神経解剖学や生理学、組織学、と幅広い知識が必要になってきます。
臨床医が診察や画像検査を行えば、病巣がおおよそ脳内のどこにあるのか推定することができます。逆に、病理医が解剖で病変を認めた部位から、生前の臨床症状を推定することもできます。ですが、多くの臨床医は患者を診て臨床診断できても、病理標本を見て病理診断はできません。同様に、病理医は病理標本を見て病理診断できても、患者を診て臨床診断できません。ですが私は、どちらにも興味があり、臨床医を続けながら研究もするという二刀流を続けています。

モットーは、「自分で見て、自分で考えて、自分で書く」

私は小学生から高校生の頃にかけて、手塚治虫の『ブラックジャック』を熟読し、医師、医学博士、教授になりたいと思っていました。そして脳神経内科医になって間もない頃、大変珍しい神経疾患の患者を担当し、病理解剖して学会で発表しました。多くの先生に叱咤激励され、その症例を一生懸命に論文としてまとめ、この頃に神経病理学や研究へのモチベーションが芽生えました。その後、コツコツと研究を続けたこと、運が良かったこと、人脈に恵まれたこと、そして親から貰った頑丈な身体と妻や子供達の応援があって現在に至っています。私のモットーは「自分で見て、自分で考えて、自分で書く」です。研究がしたいというよりは、興味があること、面白そうなことをやるのが好きなんです。臨床で患者を多く診ていると、診断に迷ったり珍しい疾患に出会ったりすることがしばしばあります。その病理標本を自分で見て確定診断や研究をするのは非常に面白いものです。

岩﨑先生からのメッセージ

目標を定めて努力を継続することは楽しいです。コツコツと地道に研究して学会や論文で発表をすることは、受験勉強して目標の大学に合格することと似ています。医師国家試験を目指して勉強する過程、あるいは研究して医学の博士号を取得する過程もそうです。医学に限らずどの分野でも、研究のためには理科や数学などの基礎学力を基盤として、思考能力、遂行能力が必要です。体力も必要ですし、心身共に健康でいなければ良い研究はできません。自分の好きなこと、興味があることを仕事にする、これが理想です。興味が持てること、モチベーションが上がることを見つけて、どんどん積極的にやってほしいです。
最後に、皆さんに、「Serendipity」という私のお気に入りの言葉を贈りたいと思います。辞書には「掘り出し物を見つける才能」などと書かれていますが、私は「幸せな偶然」と訳しています。何かを探している時に、別の価値あるものを偶然見つけたり、ふとした偶然をきっかけに幸運をつかみ取ったりすることです。人生を豊かにするために、皆さんも日々の勉強や学生生活の中で「幸せな偶然」を見逃さないようにしてください。

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