身体麻痺患者が「考える」だけで、伝え・動かす技術「BMI」―脳とAIがつなぐ新しい医療のかたち

大阪大学 大学院医学系研究科 神経情報学 教授
栁澤 琢史 先生


頭の骨を開かずに、高精度な脳波を得る

私は、ヒトの脳信号をAIで解析して考えていることを読み取り、その内容をもとに機械を動かす技術「Brain-Machine Interface (BMI)」の研究開発を行っています。BMIを使えば、病気で体を動かせない患者さんでも、体の代わりにロボットを動かしたり、コンピュータを使って自分の意思を伝えたりできます。現在は、最も重たいレベルの麻痺が生じる「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」という病気の方を対象にしたBMIの開発を進めています。
脳の中では、神経細胞が電気を使って情報をやり取りしており、そのときに生じるのが脳信号です。この信号はとても小さく、複雑です。そのため、今の技術で正確な情報を得るためには、頭の骨を開いて脳に電極を入れる手術が必要になります。そこで私達は、できるだけ患者さんの負担を減らすために、血管の中から計測する「血管内脳波」をBMIに使用する方法を探っています。この方法なら、首の血管から局所麻酔で電極を入れられ、開頭手術を受けなくても、高精度な脳波を得ることができます。
また私は、人が考えを巡らせたり、新しいことを思いついたりするメカニズムについても研究しています。頭の中に入れた電極を使って、考えているとき、何かを見たとき、体を動かしたとき、ぼーっとしていたときなど、様々な状態の脳活動を計測しています。これによって、頭の中で思い浮かべた画像や言葉、考えそのものを読み解き、画像や文章として出力するBMIの開発にも取り組んでいます。

失われた身体と残り続ける脳の記憶

私は脳神経外科医として、患者さんの頭の中に電極を入れて脳の活動を詳しく調べることがあります。様々な課題を行なってもらったり、脳を電気で刺激したりして、そのときの脳波や身体の症状を見ることで、脳の重要な場所を明らかにします。そうすることで、手術のときに、脳の大事な機能を傷つけないように治療することができるのです。
私がまだ研修医だったとき、事故で足を切断した患者さんの脳を電気刺激する機会がありました。不思議なことに、患者さんは、既にないはずの足が未だあるように感じておられ、電気刺激によって、「幻の足」に温かさを覚えたのです。刺激する場所を変えると、感じる場所が変わり、同じ場所を刺激すると、いつも同じ感覚が起こりました。実際にはもう足はないはずなのですが、脳の中には足の情報が残っており、電気刺激によって幻の足に触ることができたのです。ここに、脳外科や神経科学の面白さを実感し、その後も、人を対象として脳の働きを調べ、その理解に基づいて治療や診断に応用する取り組みを続けています。

医療×工学の新技術がもたらす希望

私の研究は「神経情報学」という分野です。「情報学」という名のとおり、この分野では、医学だけでなくAIなどの工学的な手法も多く使います。また、研究室のスタッフも医療系と工学系が半々ぐらいです。私は、工学や神経科学の知見・技術を組み合わせて、新しい医療を生み出せることに、研究の魅力を感じています。脳の働きを知ったり、脳の情報を読み解く新しい技術を作ったりすることは、純粋に科学としての面白さもあります。さらに、その新しい技術が実際に医療の現場で役立ち、患者さんに希望をもたらせることに、とても大きなやりがいを感じています。

栁澤先生からのメッセージ

将来、どの分野に進んでも人生は長い旅になります。だからこそ、やりたいことをやり抜くために、今のうちに体力や健康な生活習慣、仲間との繋がりといった人生の基盤をつくることが大切です。ぜひ、勉強だけでなく部活なども頑張って欲しいと思います。
大学受験では、幅広い分野を勉強し、新しいことを学ぶ力が身につきます。また、与えられた環境で力を尽くす経験は、皆さんを成長させ、その後の人生を豊かにしてくれるはずです。私自身、大学で物理学を学んだ後に医学部へ編入しましたが、新しい分野への挑戦は常に自分を成長させてくれました。勉強が思うようにいかないこともあるでしょうが、大切なのは続けることです。大学で学びたいことを思い描きながら、未来へ進むための通過点として取り組んで欲しいと思います。また、今はまだ目標が定まっていなくても、好奇心と行動力をもつ学生と、一緒に興味を深めていきたいと考えています。

(取材日:2026年1月)

関連情報

同じ学科のインタビューを読む

臨床医×病理医の二刀流で、神経疾患の解明に迫る!

愛知医科大学 加齢医科学研究所 神経病理研究部門 教授 岩﨑 靖 先生

発達障害のある人が特性を活かして活躍できる社会のために 治療と社会づくりの両面を整える

昭和医科大学 発達障害医療研究所 所長 准教授 太田 晴久 先生

災害医療~被災地にいち早く駆けつけて、命を救え~

兵庫医科大学 救急・災害医学 准教授 山田 太平 先生

患者の人生を取り戻せ!「痛み」のメカニズム解明と治療に挑む

兵庫医科大学 学長補佐・兵庫医科大学病院 ペインクリニック部 教授(部長) 髙雄 由美子 先生

医学的知識や科学技術で社会の安全・安心を守る

横浜市立大学 大学院医学研究科 法医学 教授 井濱 容子 先生

まだ誰も知らない「答え」を探して 難病の原因を解き明かす

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 教授
医学系研究科 教授
竹田 潔 先生

医師が提供できる「最善の方法」を増やすため 皮膚科医を経て自己免疫研究の道へ

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野 教授 沖山 奈緒子 先生

脊椎動物の「脳」の基本構造は5億年以上前に成立していた!

兵庫医科大学 医学部 医学科 准教授 菅原 文昭 先生

原因不明の病気、脳内物質の発見により解明へ 2023年 生命科学部門「ブレークスルー賞」受賞

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長 教授 柳沢 正史 先生

ブロッコリーに含まれる物質がアルツハイマーの治療につながる?人類の健康に貢献するための「宝探し」

弘前大学大学院 医学研究科 教授 伊東 健 先生

未だ謎の多いからだの構造 解明のカギは細胞に生えているミクロの毛!?

広島大学大学院 医系科学研究科 教授 池上 浩司 先生

「いつ食べるか?」の視点から研究し健康に関する社会課題を解決していく

広島大学 大学院 医系科学研究科 准教授 田原 優 先生

学部から探す

大学の学問系統別にご紹介しています。さっそく興味のある学問から読んでみましょう。

躍進の夏期講習
四谷学院の「ダブル教育」
四谷学院について詳しくはこちら
個別相談会はこちら
資料請求はこちら

四谷学院の夏期講習

ダブル教育とは?

『学部学科がわかる本』冊子版をプレゼント 入学説明会・個別説明会の予約はこちら 入学説明会・個別説明会の予約はこちら
17GJWAZ

ページトップへ戻る