氷河期にも「土器」は存在した!
縄紋文化を科学で読み解く考古学

中央大学 文学部 日本史学専攻 教授
小林 謙一 先生


土器や遺跡から、人類の歩みを研究する

私は考古学を専攻し、遺跡や遺物といったモノを手がかりに、人類社会の歩みを研究しています。考古学は、文字記録がない時代を扱う学問として始まりましたが、研究が進む中で対象は広がり、原始時代から現代社会までを視野に入れるようになりました。私はその中でも、日本列島の先史考古学、つまり人々が自分たちで文字による歴史を残さなかった古墳時代までを主な対象にしています。中心に置いているのは、教科書でいう「縄文時代」に当たる「縄紋文化」です。縄紋文化は、世界でも最古級の土器文化が栄えた一方で、本格的な農耕を採用しなかった点で特異な新石器文化だと考えています。
さらに私は、縄紋文化を人類史の中でどう位置づけ直すかを追求し、13,000年以上続いたとされている縄紋文化を前半・中盤・後半で分けて捉え直す必要があると考えています。年代測定などの自然科学分析と関係づけながら、土器文化の成立と展開、栽培や定住の進み方と変化、弥生の農耕社会へどう移ったのかを研究しています。

「15,000年前の土器」で歴史の理解が変わる

私が特に面白いと思うのは、縄紋時代の始まりをめぐる研究です。私が高校生の頃は「12,000年前に氷河期が終わって温暖になり、ドングリが増えたことで煮炊きのために土器が発明され、縄文時代が始まった」と説明されていました。ところが1999年、青森県の遺跡で旧石器時代の終わり頃の地層から無文土器が見つかり、年代測定を行うと16,000年前という結果が出て大きな話題になりました。その後、私も東京の井の頭池近くの遺跡から出土した土器を年代測定し、15,500年前という値を得たことで、15,000年前の氷河期には土器が出現していたことを確実にしてきました。つまり、教科書で説明されていた時期より約3,000年も前、まだドングリがない寒い時期に土器が現れたことになります。
こうした早い段階の土器出現は、中国南部やシベリアとも共通しており、どこかから伝わった可能性もありますが、私は東アジアの複数の地域で土器が生まれたと考えています。人類の発展を一つの道筋だけで見ないという考え方につながる大事な状況だと捉えており、さらに研究を進めています。

正解がないから、事実を積み上げて社会へ返す

考古学の魅力は、正解がないところにあります。過去は結局、絶対に分からない部分が残ります。ただし、空想で語るのは論外ですし、発掘は地道な作業なので根気が必要です。よく「ロマンがある仕事ですね」と言われますが、縄紋人に会えるわけではありません。土器の変化の順番のような個別の事実を積み重ね、整合的な歴史として組み立てていくことに、私は関心があります。研究をすればするほど、歴史的事実を復元して成果を積み上げられる点に、大きなやりがいを感じています。
さらに、考古学は自然科学分析を積極的に取り込みながら進んできました。年代測定や環境の復元、調理物の分析などを組み合わせることで、見えてくるものが増えます。私はこの点に、文系と理系が交わる文理融合の面白さがあると強く感じています。同時に、得られた成果を社会に発信し、広く共有していくことも重要だと考えています。

小林先生からのメッセージ

私が考古学に興味を持ったのは、子どもの頃に土器を拾ったことがきっかけです。その後、博物館で教えてもらったり、入門書を読んだりして、考古学を学べる大学へ進むことを決めました。高校生の皆さんには、自分で調べてみる経験をしてほしいです。何かを自分なりに調べることは、独自のスキルを身につけることにつながります。
高校での勉強は、学問の基礎です。長い人生を豊かにし、社会で人と分かり合う土台にもなります。大学に進むと、考古学でも英語や自然科学の知識が必要になります。受験勉強は苦しい時期もありますが、好きな科目とうまくバランスを取り、休息も確保しながら進めてくださいね。

(取材日:2026年2月)

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