世界を飛び回り、目に見えない「未知」を「既知」に
――新興ウイルス感染症への挑戦

長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科/医歯薬学総合研究科 教授
安田 二朗 先生


獣医師志望から一転、ウイルス研究の道へ

私は現在、ヒトや動物の新たな脅威となった「新興ウイルス感染症」の研究をしています。具体的には、エボラウイルス病、ラッサ熱、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)といった致死性の高い感染症や、COVID-19などのようにパンデミックを起こす感染症についてです。しかし、最初からウイルス研究者を目指していたわけではありません。もともと北海道大学の獣医学部に入学し、3年生までは牛や馬などを診る大動物の獣医を志していたのです。
当時、牛肉の輸入自由化などで畜産業の見通しが暗くなり、進路に迷っていた私に転機が訪れたのは、微生物学の実習中に、後に恩師となる先生からウイルス研究の面白さを教わったときでした。それまで言葉でしか知らなかった「細菌」や「ウイルス」という目に見えないものを、実験を通じて実体化し、その存在を証明する。それが非常に新鮮だったのです。しかも、ウイルスがどうやって動物に感染し病気を起こすのか、なぜ種類によって生息地域や感染する動物が違うのかなど、ウイルス学は「わからないことだらけ」でした。この実習を通じてその「未知」の部分に強く惹かれ、私はウイルス研究の道へ進むことを決意しました。

開発した診断キットを携え、世界の流行地へ

研究活動は研究室にとどまらず、海外のフィールドにも積極的に足を運んでいます。世界各地でウイルス感染症の流行が発生すれば現地へ赴き、自分たちが開発した診断キットの評価試験を行い、実用化につなげています。
例えば、ギニアやコンゴ民主共和国でのエボラ出血熱が大流行したとき、ブラジルでジカ熱が流行したときには、患者さんの検体を用いて開発キットの評価試験を行い、その後、日本政府からの緊急無償支援として診断機器とキットを政府に供与しました。そしてCOVID-19パンデミックの際にも、私たちが開発したキットを国内外に導入しました。
また平時には、ガボン、タイ、ブラジルなどで、流行しているウイルスの種類や特徴を明らかにしたり、野生動物を捕獲し、どのようなウイルスを保有しているか調べたりしています。私は獣医のバックグラウンドがあるため、「色々な野生動物がどんなウイルスを持ち、それが将来ヒトに感染して新たな脅威にならないか」という予測に特に興味を持っています。

専門家として、サイエンスや社会に貢献

私にとってこの研究の最大の魅力は、一言で言えば「未知を既知にできること」です。これまでわかっていなかった現象を解き明かし、新規のウイルスを発見し、新たなワクチンや治療薬、診断薬を開発することで、サイエンスや社会に直接貢献できることに大きなやりがいを感じています。海外での研究や危険性の高いウイルスを扱うことについて、過酷なのではないか、と思う人もいるかもしれません。確かに日本からの移動時間が長いことやフィールドでの暑さに関しては少し大変と言えるかもしれません。ですが、自分の興味に基づいた研究であり、専門家としての自負もあるため、苦労や恐怖を感じることはほとんどありません。むしろ、一般の人が行かないような国を訪れることは、自身の見識を広げ多くの学びを得る貴重な体験だと感じています。

自ら考えて、解を導く努力を

高校生の皆さんに期待するのは、情報が氾濫する現代だからこそ、「自分の頭で考えて解を導く努力をする人」になってほしいということです。そして、考えるだけでなく、ぜひ行動にうつしてください。私が研究室の学生に求めているのも、「とにかく実験が好きでよく学び、よく考え、たくさん実験をする人」、そして「志を持って真摯に研究に取り組む人」です。受験勉強を通して幅広い知識を身につけることは、人生の様々な局面で、自分自身で考えて行動するための重要な基盤になります。
また、日々の学びを大切にしつつも、机上の勉強にとどまらずに、高校生のうちから興味をもったことにはどんどんチャレンジしてほしいと思います。

安田先生からのメッセージ

第一志望の大学・学部に合格するために精一杯努力することはとても重要です。しかし、大学に合格するだけで人生が決まるわけではありません。「大学で何を学ぶか」「卒業後のビジョンをどう描くか」の方がもっと重要になってきます。もし、希望通りの結果にならなかったとしても、例えば大学院に進んだり、起業したり、皆さんの前にはいくらでも選択肢が広がっています。常に視野を広く持ち、皆さんにとっての“最適解”を見つける努力を続けてください。

(取材日:2026年7月)

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