災害医療~被災地にいち早く駆けつけて、命を救え~

兵庫医科大学 救急・災害医学 准教授
山田 太平 先生


医療の需給バランスが破綻するとき、何が求められるのか

昨今、何かと目にする事の多い「災害」という言葉。災害時には、救急、救助、消防、警察、自衛隊、行政機関などとともに、「医療」も対応を迫られます。大地震のような広域災害から列車事故などの局地災害、テロなど多数傷病者が発生する事案で「防ぎえる災害による死亡、悲劇の低減、健康被害の防止」を目的に医療を展開します。災害医療の特徴は、需給バランスが破綻するところにあります。つまり、平時の医療は人・物などが十分にある状態で行われるのに対し、災害時は、それらが不十分または全くない状態で行われるのです。そのため災害医療は、ありとあらゆる知識と技術の応用、そして、判断力も求められる分野であり、これは日常診療での研鑽と平時の準備によってのみ対応が可能となります。また災害時には、他の医療組織や消防など多機関との連携も重要な活動の一つです。過酷な環境のもと、協働するチームの一員としての役割を認識し、コミュニケーションを取りながら、コーディネート、時にはマネジメントする力を発揮しなければなりません。さらに、緊急対応のみではなく、災害発生超急性期からの早期復旧・復興を目指した活動、平時からの地域防災力や災害対応能力の向上を目的とした準備や啓蒙活動などに取り組む必要があると考えています。

そのため私は、

1. 病院防災と災害医療体制の整備
2. 災害時の医薬品供給体制の整備
3. 医療DX(デジタルトランスフォーメーション)による危機管理システムの構築
4. 災害時の多職種連携・多機関連携の実践
5. 災害時の国際保健医療活動のあり方
6. 医療機関による地域防災への取り組み

などをテーマとして、現場主義に徹して、災害時の医療を発展させるべく、行政機関への働きかけや学術機関として「災害医学」という学問体系の構築に努め、臨床・教育・研究を行っています。

研修医として対応した列車脱線事故の経験から、救命救急の道へ

まだ私が研修医だった2005年4月25日、JR福知山線の脱線事故は起こりました。次々と運ばれてくる負傷者、必死に治療にあたる医療スタッフ、この経験が、自ずと私の向かう先を決めました。そして災害医療について学ぶうちに、東日本大震災が発生。DMAT(災害派遣医療チーム)として現地に入り、被災地から患者さんを全国の病院に搬送する日本初の広域医療搬送に携わりました。その後も、2016年熊本地震、西日本豪雨、最近では、2023年トルコ・シリア地震や令和6年能登半島地震の際に、現地に飛び医療活動を行いました。災害の怖さや悲惨さと同時に、多くの命を守る災害医療の大切さや奥深さを知った今、私がやるべき事は多いと感じます。南海トラフ巨大地震や首都直下型地震などの懸念も連日メディアを賑わせているように、大きな災害は、必ず、そして突然やって来る。いざという時、一秒でも早く現地に赴き、一人でも多くの命を救うことができるように、また、院内や地域災害医療体制の整備、DMATなどを修練する事で、地域・病院全体を牽引していけるように、これからも走り続けたいと思っています。

救急現場は“びっくり箱”。そこにあるのは医療の原点

救急車には、年齢、性別、時間に関係なく、様々な訴えの患者さんが乗っています。救急医は、怪我をしている人、心肺停止の人、ぐったりした子供、など急病をすべて扱わなければなりません。「救急車やベッドサイド、被災地はびっくり箱のようなもので、開けてみるまで何が入っているかわからない。その箱を開けるのには常に緊張を伴うが、その中には医療の原点がある。」救急医になりたての頃、尊敬する指導医から教わった言葉です。医療は高度化・専門化するあまり、各専門科の領域間が空白化してしまい、領域をまたぐ総合的な問題解決能力をもつ救急医の需要は益々高まる一方です。しかし、外傷診療、災害医療、病院前救急診療やメデイカルコントロール、地域医療をも担う救急医は圧倒的に不足しているのが現状です。また、人口の減少に反して救急搬送件数は増加し続けています。

極限を超えて命の逆境に立ち向かった先に救急医療の未来がある

これから、私たち救急医の需要はますます増え、日本社会を救うカギを握る診療科になっていくと確信しています。超高齢化社会を迎えるにあたっては、これまでとは違った救急医療や災害医療が求められてくるでしょう。救急医は最も死に直結する診療科でもあり、Quality of Death、いかにして死を迎えてもらうか、を考え、診療にあたる事も大切です。不幸にして脳死になってしまった患者さんに、最高の終末期医療を提供する事で臓器提供につながる場合もあります。求められるのは、目の前の患者にスピード感をもって接する事はもちろん、その病態に対する最速・最大限の治療を熟知し、現段階でどの程度までの治療が適切かを即座に判断し、劇的な救命を、時には安心とホスピタリティに満ちた終末期を提供できる能力だと思っています。それはすなわち、地域医療・在宅医療にも通じる必要な能力です。救急は地場産業。私たちは、「断らない」事を目標に救急医療を行うのでなく、患者や家族、地域のニーズを鑑みて、自らの守備範囲と緊急度・重症度を考慮して迅速に対応する事で、結果として「断らなくてもいい」救急医療の提供体制を整え、地域に還元するのが最も大きな役目であると考えています。
「いつでも、どこでも、だれでも、良い医療を」といわれ、国民の医療に対するニーズは高まっていますが、これは救急医療の現場では特に強く求められています。その期待に応えられるよう、「最速かつ最善の処置で救える命がある。距離という壁を飛び越え、時間という試練を乗り越え、想定外の事態を想定し、全力以上の全力を尽くす。助けを求める人を前にして、限界を決める必要はなし。常識を超えて。極限を超えて。命の逆境に立ち向かう。その先に、救急医療の未来がある。」を信条に、精進したいと思っています。

山田先生からのメッセージ

医療の本質は、人と人との関わり合い、そして支え合いです。医学の道に進むには、まず人に興味を持つことが肝要です。また、これからの人生、様々な経験をして、多くのヒトやモノに出会うでしょう。その「出会い」一つひとつを大切にしてもらいたいと思います。そんな「出会い」の中で人の人間的な部分である喜怒哀楽を知るからこそ、知識や技術だけではなく、病気や怪我などで困っている人たちに真に寄り添えるのだと信じています。

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