エボラウイルスの感染メカニズムに迫る!
ウイルスVS細胞の巧妙で精緻な攻防戦

長崎大学大学院 高度感染症研究センター 教授
南保 明日香 先生


ウイルスが細胞を乗っ取る瞬間を「視る」

私は、ウイルスがどのように細胞へ感染し、その仕組みを巧みに利用して増殖するのかを研究しています。ウイルスは自分だけでは増殖できず、感染した相手(宿主)の細胞機能を利用して生き延びます。その巧妙な戦略や、ウイルスと細胞が繰り広げる精緻な相互作用に強く惹かれ、分子レベルで仕組みを明らかにすることを目指しています。
現在の主な研究対象は「エボラウイルス」です。アフリカで繰り返し感染爆発(アウトブレイク)を引き起こしてきた極めて病原性の高いウイルスで、有効な治療法は限られています。私たちは、ウイルスが細胞へ侵入する仕組みや、新しく子孫のウイルスが作られる仕組みを解明し、将来の新しい薬の開発につなげたいと考えています。研究室では、最先端の顕微鏡技術を活用し、生きた細胞の中でウイルスがどう振る舞うかを直接観察しています。さらに、ウイルスだけでなく、細胞内にある小さな器官やタンパク質の動きにも着目しています。つまり、ウイルスが細胞に侵入した時に起こる変化を映像として「視る」のです。これまでに、ウイルスの侵入経路や、新しいウイルスが作られる際に細胞内の物質を運ぶ仕組みが重要であることを見いだしてきました。

ミクロな世界のダイナミックな生命活動に魅了されて

子どもの頃から「なぜこのような現象が起こるのだろう」と、まだ誰も解き明かしていない自然の仕組みに強い興味を持っていました。両親の仕事柄、自宅に簡単な実験機器があるなど、研究を身近に感じながら育った影響も大きいと思います。大学院では細菌感染に対する生体防御を研究し、目の前の現象を観察して「なぜ起こるのか」仮説を立てて検証する面白さを学びました。その後、EBウイルスの研究に携わり、ウイルスが細胞の仕組みを驚くほど巧みに利用して増殖する姿に魅了されました。ウイルスは単なる病原体ではなく、細胞の仕組みを理解するための優れたモデルでもあるのです。
その後、米国留学で私の研究人生を変える「生細胞イメージング」技術に出会います。顕微鏡越しに見えるダイナミックな生命活動の精巧さや美しさに魅了され、「ミクロの世界を視る」こと自体が研究の醍醐味になりました。また、世界中の研究者と交流する中で、異なる視点を取り入れる大切さを学んだことも、「一つの現象をさまざまな角度から視る」現在の研究スタイルの基盤です。

「まだ誰も知らない世界」に出会う感動が、研究の原動力

研究の最大の魅力は、まだ誰も視たことのない生命現象に出会えることです。顕微鏡で細胞を観察していると、予想外の現象が目の前で起こることがあります。その瞬間、「今、この現象を視ているのは世界で私だけかもしれない」と感じ、心が震えるほどの感動を覚えます。そうした発見の喜びは、何ものにも代え難く、次の研究への大きな原動力にもなります。
私は、感染症の克服という社会的な使命と、生命現象の本質を知りたいという純粋な知的好奇心の両方を大切にしています。新しい発見は知識だけでなく、「不思議だ」「面白い」「美しい」と感じる豊かな感性から生まれます。自然界に存在する精巧な仕組みの美しさに気づき「なぜだろう」と問いを持つことが研究の出発点になるのです。
現在は、次世代の研究者を育てることも私の大切な役割です。学生たちが自ら考え、新しい発見に出会って目を輝かせる姿を見ることは何よりの喜びであり、彼らが将来、生命科学の発展に貢献してくれることを心から期待しています。

知識×感性が新しい発見につながる問いを生む

高校の学習は、大学での専門的な学びの大切な土台です。理系科目で身につけた基礎的な考え方が研究の基盤になるのはもちろん、サイエンスの共通言語である英語も欠かせません。一方で、国語や歴史なども決して無駄にはなりません。海外の研究者と交流する際、自国の文化や歴史を理解し、自らの考えを伝える幅広い教養が、より深い交流や新しい発想につながるからです。ただし、教科書を暗記するだけではなく、「なぜそうなるのか」を考え続ける習慣を身につけてください。研究では、知識以上に、自ら考え疑問を持ち、仮説を立てる力や、さまざまな現象を「面白い」「不思議だ」と感じられる豊かな感性が求められます。だからこそ、勉強だけでなく、読書や芸術、旅行や人との出会いを通して自分の世界を広げる経験も大切にしてください。一見、研究とは無関係な経験が、人間としての幅を広げ、物事を多面的に捉える力を育ててくれます。知識と感性の両方があってこそ、新しい発見につながる問いが生まれるのです。そうした知的好奇心と感性を大切にする学生と一緒に研究できることを楽しみにしています。

南保先生からのメッセージ

大学は、本当に興味を持てる学問に出会い、それを深く探究できる場所です。受験勉強は決してゴールではなく、そのための準備期間です。知識の暗記も必要ですが、背景にある「なぜ」を考え、自然界の原理や法則を理解する姿勢を忘れないでください。知識は学べますが、「不思議だ」「面白い」「美しい」と感じる知的好奇心や感性は、日々の学びや経験を通して自ら育むものです。誰もが潜在的にもっているそれらを、大きく育む環境が大学にはあります。皆さんが自分だけの問いを見つけ、まだ誰も見たことのない世界に挑戦してくれることを楽しみにしています。

(取材日:2026年7月)

関連情報

同じ学科のインタビューを読む

世界を飛び回り、目に見えない「未知」を「既知」に――新興ウイルス感染症への挑戦

長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科/医歯薬学総合研究科 教授 安田 二朗 先生

人類に眠る「夏眠」の力とは? 生命の仕組みを理解して、健康や未来に役立てる

香川大学 医学部 教授 西山 成 先生

身体麻痺患者が「考える」だけで、伝え・動かす技術「BMI」―脳とAIがつなぐ新しい医療のかたち

大阪大学 大学院医学系研究科 神経情報学 教授 栁澤 琢史 先生

臨床医×病理医の二刀流で、神経疾患の解明に迫る!

愛知医科大学 加齢医科学研究所 神経病理研究部門 教授 岩﨑 靖 先生

一枚の説得力のある写真がものを言う血管研究

慶應義塾大学 医学部 解剖学教室 教授 久保田 義顕先生

発達障害のある人が特性を活かして活躍できる社会のために 治療と社会づくりの両面を整える

昭和医科大学 発達障害医療研究所 所長 准教授 太田 晴久 先生

災害医療~被災地にいち早く駆けつけて、命を救え~

兵庫医科大学 救急・災害医学 准教授 山田 太平 先生

患者の人生を取り戻せ!「痛み」のメカニズム解明と治療に挑む

兵庫医科大学 学長補佐・兵庫医科大学病院 ペインクリニック部 教授(部長) 髙雄 由美子 先生

医学的知識や科学技術で社会の安全・安心を守る

横浜市立大学 大学院医学研究科 法医学 教授 井濱 容子 先生

まだ誰も知らない「答え」を探して 難病の原因を解き明かす

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 教授
医学系研究科 教授
竹田 潔 先生

医師が提供できる「最善の方法」を増やすため 皮膚科医を経て自己免疫研究の道へ

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野 教授 沖山 奈緒子 先生

脊椎動物の「脳」の基本構造は5億年以上前に成立していた!

兵庫医科大学 医学部 医学科 准教授 菅原 文昭 先生

なぜ眠れない?なぜ起きられない?睡眠研究の最前線 2023年 生命科学部門「ブレークスルー賞」受賞

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長 教授 柳沢 正史 先生

ブロッコリーに含まれる物質がアルツハイマーの治療につながる?人類の健康に貢献するための「宝探し」

弘前大学大学院 医学研究科 教授 伊東 健 先生

未だ謎の多いからだの構造 解明のカギは細胞に生えているミクロの毛!?

広島大学大学院 医系科学研究科 教授 池上 浩司 先生

「いつ食べるか?」の視点から研究し健康に関する社会課題を解決していく

広島大学 大学院 医系科学研究科 准教授 田原 優 先生

受験勉強で「脳の使い方」がうまくなる?成績を伸ばすだけじゃない。一生モノの「地頭」をつくる仕組み

東北大学 加齢医学研究所 川島隆太先生

学部から探す

大学の学問系統別にご紹介しています。さっそく興味のある学問から読んでみましょう。

四谷学院の「ダブル教育」
四谷学院について詳しくはこちら
個別相談会はこちら
資料請求はこちら

四谷学院の夏期講習

ダブル教育とは?

『学部学科がわかる本』冊子版をプレゼント 入学説明会・個別説明会の予約はこちら 入学説明会・個別説明会の予約はこちら
17GJWAZ

ページトップへ戻る