たくさんの命を救うために
国際医療福祉大学 免疫学教授
慶應義塾大学 医学部 名誉教授
河上 裕 先生
臨床から研究の道へ
私は慶應義塾大学医学部を卒業したあと、内科医として、特に白血病などの治療を行う「血液内科」を専門に働いていました。しかし、現場では、治せない病気が山ほどあるということがよくわかりました。治せる病気だけを治すのではなく、治らない病気で困っている人たちを助けるためには、研究が必要ということを身にしみて感じ、医学研究の道に進みました。白血病は血液細胞のがんですし、血液は免疫と密接な関係にあります。そこで私は米国に渡りNIH国立がん研究所を中心に12年間、「がん」と「免疫」の研究に取り組みました。
「がん免疫療法」の開発
がんは、細胞に遺伝子異常が起こり、コントロールの効かない異常細胞がどんどん増えて身体が破壊されてしまう病気ですが、実は、日本人の2人に1人がかかる非常に多い病気です。がんの治療は、①外科手術、②抗がん剤を使用する化学療法や分子標的治療、③放射線治療が「三大標準治療」と呼ばれていました。しかし実際には、約半数の患者さんが標準治療では完治できません。そこで、第4の治療法とも言われるのが、私たちの研究している「免疫療法」です。体には細菌やウイルスを排除する「免疫防御」という仕組みがあり、新型コロナウイルスなどのワクチンもこれを利用したものです。私たちは長年、免疫細胞(特にTリンパ球)はがん細胞をどうやって見分けるのか?どうやってがん細胞を排除できるのか?がん細胞はどうやって免疫防御から逃避するのか?という疑問に対して、患者さんからいただいた貴重な血液やがん細胞などを用いて研究をしてきました。
最近、「免疫チェックポイント阻害剤」と「培養T細胞を用いる養子免疫療法」という2つの免疫療法が、がんを攻撃するTリンパ球を活性化させ、進行したがんにも強力な治療効果を示すことがわかり、今「がん免疫療法」は世界のがん治療開発の中で最大のトピックスとなっています。2018年度ノーベル生理学・医学賞は、免疫チェックポイント阻害薬の基礎となる研究をされた京都大学本庶佑教授とテキサス大学JamesAllison教授が受賞されました。基礎研究の成果が患者さんに貢献できた良い例です。しかし、まだ効かない患者さんも多く、私たちはがん免疫療法の改良のためにコンピュータを用いたマルチオミックス解析などの新技術を駆使し、がんの免疫病態の解明とその制御法の開発のために日々努力しています。私は若い方ががんで亡くなるのを多く見てきましたので、私たちの研究が少しでもがんで困っている患者さんのために役立てばと願っています。
医学研究は医者だけではできない
医学の発展には、他分野との協力が欠かせません。例えば、バイオインフォーマティックスと呼ばれる統計解析には数学の知識が必須ですし、「ロボット手術」の開発には機械・電気・通信の知識が不可欠です。臨床試験の実施においては社会科学の知識も必要です。ですから、文科系の人も含めて、あらゆる人が医学に直結した仕事に就くことができます。そのことはみなさんに是非知っておいてほしいと思います。
河上先生からのメッセージ
自分の好きなもの、やっていてあまり苦にならないものを見つけましょう。それがみなさんの素質や才能です。皆、それぞれ好きなことは異なると思います。そして、好きなものを見つけたら、一生懸命努力して、世界に飛び出しましょう!そのためには、カタコトで構わないので、英語が話せるとよいですね。世界に出れば、面白いことがたくさんあります!皆さんの人生が本当に広がります!









