更新日:2026年10月27日

土器のカケラから読み解く
古代の「ありのままの」社会と文化

岡山大学 文学部 教授
松本 直子 先生


文字のない時代に生きた人々の「心」に迫る

私は考古学を通して、昔の人たちがどうやって世界を理解し、社会や文化をつくってきたのか、を研究しています。主な対象は、文字の記録がない日本の縄文時代や弥生時代です。土器や土偶、住居やお墓などから、当時の暮らしや人間関係を探っています。特に関心があるのは、モノから当時の人の心の働きを探る「認知考古学」です。土器の形や模様には、作った人の技術だけでなく、何に注目し、誰から学んだかということも関わっています。共通点や違いを調べ、どのように知識が受け継がれ、人々が交流したかを考えています。

証拠をもとに過去を見直し、常識を覆す

また、「昔は男が狩りをし、女が家事をした」というイメージは本当なのかを問い直す、「ジェンダー考古学」にも取り組んでいます。現代の思い込みで過去を見ていないか、証拠をもとに見直すことが大切なのです。最近では、女性も狩りをしていたことが分かってきています。知識と技術をもとに、より複雑な社会構造や人々の行動の背景を解明するため、心理学や生物学などの専門家と協力しながら研究を行なっています。

想像を超える生き方や社会の多様性

研究のきっかけは、「自分とは違う時代を生きた人々は、世界をどう見ていたか」という疑問です。数千年前に作られたモノを手に取り、作り手の体の動きや気持ちを想像するのはとてもワクワクします。土器や土偶の形を調べるだけでなく、当時の人々が何を感じ、何を大切にしていたのか、もう1歩踏み込みたいと考えました。現代の感覚では不思議なモノでも、当時の暮らしには必ず意味があったはずです。その意味を探りたい思いが認知考古学につながりました。当たり前を疑う姿勢は、ジェンダー考古学も同じです。過去の研究から、人間の生き方や社会には、私たちが想像する以上に多様な形があることに気づかされます。

小さな土器の破片から広がる大きな発見

この研究の面白さは、小さな資料から大きな発見につながるところです。土器の破片1つにも、材料の選び方や手の動かし方など多くの情報が隠されており、注意深く観察して他と比べると、当時の暮らしや人々のつながりが見えてきます。また、DNA研究や情報科学、心理学など多様な分野と協力できるのも魅力です。異なる専門家との対話から、自分1人では思いつかない新しい視点が生まれ、かつては解けなかった謎にも挑めます。過去を知ることは、今の暮らしや価値観がどのように生まれたのかを見つめ直し、未来の可能性を探ることにもつながるのです。

身近な疑問を大切に
他者の問いにも関心を

岡山大学では先生と学生が一緒に発掘調査を行っています。ぜひ積極的に参加して、新しい発見の瞬間に立ち会ってください。私が一緒に学びたいと思うのは、身近なことにも疑問を持ち、それを大切にできる人です。入学前から専門知識が豊富である必要はありません。「本当にそうなのかな?」と問いを持ち、自分で調べ、考えてみようとする姿勢を期待しています。また、自分と異なる意見に耳を傾け、新しい証拠に出会ったときは考えを柔軟に修正できることも大切です。自分の問いを持ちながらも、他人の問いにも関心を向け、一緒に学ぶことを楽しんでほしいと思います。

文理を超えた基礎学力が
大学でも社会でも必ず活きる

高校生のうちに、実物に触れる経験をしておくことをお勧めします。博物館や遺跡を訪れてモノをじっくり観察し、「説明」と「自分で見て分かること」を比較すると新しい疑問が湧いてきます。また、文理にとらわれず、幅広い教科の基礎を大切にしてください。考古学は人文科学と自然科学の両方に関わる学問だからです。国語や外国語は文献の読解や研究成果の発信に、数学や理科はデータの分析や、遺物の材質・年代の調査に役立ちます。もちろん歴史や地理は資料の時代や場所を正しく位置づけるために不可欠です。受験勉強で培う、自ら調べて試行錯誤し、複雑な問題を分けて考える経験や、「なぜ?」「根拠は?」と問い続ける習慣は、知識を使いこなす力となり、大学での研究や将来の仕事でも必ず活きてくるはずです。

松本先生からのメッセージ

受験勉強中は、周りとの差が気になり自信をなくすこともあるでしょう。でも、今の成績だけで可能性は決まりません。大学での新しい出会いが、隠れた才能や興味を引き出してくれます。今は目の前の勉強を頑張りつつ「大学でこれを知りたい!」という好奇心も大切にしてください。将来の夢は学びながら探せば大丈夫です。睡眠や食事も大切にし、行き詰ったときは周囲に相談を。大学には、まだ誰も答えを知らない問いに挑む楽しさがあります。皆さんと学べる日を楽しみにしています。

(取材日:2026年10月)

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