化学の力で歴史を紐解け!
青銅器の成分変化が明かす、古代社会の仕組み
「考古学」と聞くと「古い遺物を発掘する学問」というイメージを持つ人もいるかもしれません。けれど先生の研究は、モノを見つけるだけにとどまりません。大量の出土品や1つの銅鏡の成分には、当時の社会の仕組みや、日本国家の成り立ちを解き明かす大切なヒントが隠されていました。
島根大学
法文学部 准教授
岩本 崇先生
材料科学による
青銅器サプライチェーンの解明
世代を超えて受け継がれた銅鏡
――先生は、考古学の視点から、歴史のどのような謎に迫っているのでしょうか?
私は、古墳時代の社会の仕組みや、日本という国家がどのように生まれていったのかを研究しています。手がかりにしているのは、“希少財”が当時どう扱われていたかや、地域社会の動きです。
――“希少財”とは、当時「めずらしかったもの」ということでしょうか?
そうですね。特に、弥生時代から古墳時代にかけて貴重とされていた「青銅器」に注目しています。当時の社会で青銅器がどのような意味をもっていたのか、「材料科学」など理系分野とも協力しながら追究しています。
――青銅器の研究に、「材料科学」の理系分野がどう関わってくるのでしょうか?
私は特に「銅鏡」に注目しているのですが、形や模様の違いを見るだけでなく、「どんな成分が含まれているか」といった化学的な分析を行います。それによって、「誰が」「いつ」「どこで」作ったものなのか、変化が詳しく分かり、当時の社会の動きが見えてくるのです。
――なるほど、化学の力で歴史を紐解くのですね!
また、考古学の方法で年代を正確に測れるようになると、1つの銅鏡が親から子へ何世代にもわたって受け継がれていたことも分かってきます。そうした現象が、当時の社会でどんな意味を持っていたのかも調べています。
自らの手で獲得した資料から
新しい議論を立ち上げる
――実際に、遺跡に行かれることもあるのでしょうか?
はい。山陰の遺跡を発掘したり、出土品をデータ化したりする活動もしています。地域に根ざした研究を通じて、山陰や出雲といった地域が、日本や東アジアの歴史の中でどんな役割を果たしていたのかを明らかにする取り組みも進めています。
――これまでの発掘現場で「これはすごい!」と驚かれた経験はありますか?
2002年に兵庫県の「茶すり山古墳」を発掘したときのことです。1つの埋葬施設から、鏡や武器などの副葬品が、まさに「足の踏み場もないほど」大量に出土するのを目の当たりにしました。
――そんなに大量の宝物が1人のお墓に集中しているなんて、すごいですね。
私はそれを見て、社会を動かすあらゆる資源が一部の有力者に独占されるのが、古墳時代の大きな特徴だと考えました。このように、新しい資料を自らの手で獲得して、そこから新しい議論を立ち上げられることは、考古学の醍醐味です。
――先生が、本格的に考古学を学ばれようと思ったきっかけは何でしょうか?
大学2年生の時の発掘調査ですね。遺跡や遺物といった資料は、ただそこにあるだけでは何も語りません。でも、資料に向き合うなかで、自分なりの問いかけ次第で過去の社会に迫る手がかりに変わるんだ、と実感したんです。
――考古学の面白さを肌で経験されたわけですね。
どんな資料であっても、学問としての方法論を用いることで、客観的で意味のある情報を引き出すことができる。こうした魅力に気づけたことが、この道に進む一番の動機になりました。
日常的に「本物」に触れる
学生の人生を変える大学での学び
――先生がいらっしゃる島根大学の考古学研究室には、どのような特徴がありますか?
4名の教員が一体となって教育と研究に取り組んでいます。それぞれ専門とする時代や地域が異なるため、幅広い分野を学べるのが特色です。
――学生数に対して教員数が多そうですね。
そのとおりです。学生と教員の距離が近く、非常に細やかに対応できる点は魅力といえます。さらに、研究室には貴重な考古資料が収蔵されていて日常的に実物に触れられることや、地域的にも、特色ある資料や文化財が豊富なことが強みです。
――実物の資料に触れながら学びを深められるのは、魅力的ですね!
それから、実践的な学びも大切にしています。専門的な授業の中核であり、基礎ともなる「考古学実習」という科目では、大学の近くにある金崎古墳群で実際に測量調査を行っています。
――考古学を学んだ学生は、卒業後どのような分野で活躍されているのでしょうか?
自治体の文化財担当職員をはじめ、公務員として活躍する卒業生が多いですね。教員や民間企業への就職も少なくありません。消去法的に考古学を選択した学生が、意外とのめり込むケースもありますよ。
――発掘調査をきっかけに、その魅力にはまってしまう人も多そうですね。
大学の学びは、その後の人生を変えることもあります。そのように意識がガラリと変わった学生は、教員として指導してきたなかでも一際鮮明に記憶に残っていますね。
学問の基礎は「国語力」から
読書と作文のすすめ
――先生のお話から、考古学に関心をもった高校生に、お勧めの入門書はありますか?
近藤義郎さんの『前方後円墳の時代』(岩波書店)をお勧めします。考古学や歴史の本に限りませんが、高校時代はぜひ本をたくさん読んでください。すべての科目の基礎となる国語力が高まると思います。
――読書は、受験勉強にも有効だとお考えですか?
そうですね。読書と、それから作文も極めて有効です。私は高校生の頃、哲学雑誌などの読者欄に毎月投稿するうちに文章執筆の力をつけることができました。論理的な文章を作成する機会を積極的に作ることをお勧めします。
――国語力は、大学受験だけでなく、大学での学びにも活きてきそうですね。
そうですね。国語だけでなく英語もそうですが、大学でも役立つ論理的な表現力や思考力が身につきます。また、それ以外の科目であっても、どれも大学以降の基礎になりますし、あらゆる関心を広げていくうえで非常に大事です。
常識を疑い、豊かさを思考する
前向きに取り組む姿勢
――貴学の「求める学生像」についてお聞かせください
ものごとを自らの問題意識として考察できる、あるいはオリジナルな思考で柔軟に対応できる学生に、ぜひ島根大学で学びを深めてもらえたらと思います。
――大学での学びを通して、どのような力を身につけてほしいと期待されますか?
定説や常識となっているパラダイムを検証できる力を身につけ、ヒトにとっての豊かさとは何かを思考できる力を養ってほしいと願っています。
――学びを、より充実したものにするために大切なことは何でしょうか?
さまざまなことに前向きに取り組む姿勢が不可欠です。そのような姿勢は、大学での学びをより充実したものにし、その後の人生を変えるほどのきっかけを与えてくれることもあるでしょう。
――最後に、進路に向かって頑張る高校生へメッセージをお願いします。
受験勉強はある種の「与えられた課題」ではありますが、前向きに取り組んでいただければと思います。とにかく諦めることなく、視点を変えて自分のできる方法で継続することが困難を克服する鍵になるはずです。
古い遺物が社会の仕組みを語り出す―― ただそこにあるだけの資料も、自分なりの「問いかけ」次第で、過去の社会に迫る手がかりへと変わっていきました。あなたが毎日取り組んでいる受験勉強も、やがて常識を疑い、豊かさを思考するための大切な基礎になります。諦めずに視点を変えながら、あなたなりの「問い」を探し続けてみてください。
(取材日:2026年8月)
島根大学 法文学部 社会文化学科 歴史と考古コース
https://www.hobun.shimane-u.ac.jp/shakaibunka/rekishikouko/index.html









